シンプルなデザインと使いやすさに定評がある調理器具「ステンレス ラウンドバーシリーズ」。手がけているのは、東京・小金井市にあるヨシタ手工業デザイン室です。代表兼デザイナーの吉田守孝さんに、ものづくりへの想いを伺いました。
「ヨシタ手工業デザイン室」とは
2011年の設立以降、製品の企画・デザインから販売、営業、在庫管理まですべて自社で行っています。ピーラーや包丁などの調理器具シリーズ「ステンレス ラウンドバー」のほかにも、食器や木製のトレイ、爪切りまで様々な日用品を取り揃えているのが特徴です。
「大学卒業後、柳工業デザイン研究会に入所し、約20年にわたって柳宗理先生の元で働いていました。そこで学んだのは頭で考えるのではなく“手でつくる” “手で考える”というデザインの手法。スケッチは描かず、まずは模型(モデル)をつくることからすべてが始まります。私自身、そうやって手を動かしながら考えたり、感触から発想していったりする作業がとても好きですね。そういう意味を込めて、社名には“手工業”と名付けました。あとは、私の苗字はヨシダではなくヨシタと読みますので、間違われないようにあえてカナで入れました」
「柳先生からは本当に多くのことを教わりました。そのなかで、常に私が忘れないように意識しているのは『機能を徹底的に追求していけば、デザインは自然と美しくなる。それこそが、理想的なデザインである』という概念。だから製品をつくるときには、“使い心地や持ち心地の良さ”に、とことんこだわります。その結果、カッコイイものが生まれるといいな、といつも思っていますね」
「機能」を追求して生まれた、
ヨシタ手工業デザイン室の
台所用品がこちら
手に優しくなじんで、
むきやすい!
「ピーラー」3種
皮むき、千切り、細切りの3種類。持ち手のフチ部分が全部丸くなっているから、握ったときの感触が優しく、使い心地は抜群です。
「デザインでこだわったのは、コンパクトさ。握りやすさはもちろん、洗いやすさ、収納のしやすさもポイントです。『皮むきピーラー』は、ジャガイモのように刃の向きを変えながら皮をむく素材もむきやすいよう、作っています」
「新潟県燕市の工場で出会った『ステンレスラウンドバー』という素材を使って製造しています。ステンレスの丸棒をロール加工で平らに押しつぶしたもので、角張ったところがなく両フチとも丸みを帯びているのが特徴。握ったときの感触が優しくて、手で使う道具にはぴったりな素材です。長くお使いいただけるように、刃は取り替えられるようにしています」
持ち手部分にひと工夫あり
「レードル」
味噌汁、スープ、煮込み料理などに欠かせない、何かと出番のあるレードル。指に力を入れなくても、さっとすくえます。
「このレードルも、ピーラーと同じく『ステンレスラウンドバー』素材を使っています。ポイントは、ハンドル部分の1カ所だけ、ほんのわずかに曲げていること。この曲がっている部分にちょうど親指が軽く引っかかるから、すべらない上に、すくって持ち上げやすくなっているのです。ハンドルは持ちやすい厚みの具合を探ったり、形状を変えたりと試行錯誤しましたね…。レードルは全体的に小ぶりなサイズにしたので、食卓で鍋料理を食べるときにも邪魔にならないと思いますよ」
まずは使ってみて、
日本のものづくりの
素晴らしさを
感じてください。
料理の時間
「生活の中で使う調理器具や道具をきっかけに、“日本のものづくり”の素晴らしさを少しでも感じたり、知ってもらえたらうれしいですね。私も、お店や催事でお客さまと接するときにはものづくりの現場のことを伝えていきたいです」
環境への思い
「もともと、『ステンレスラウンドバー』という素材は、水差しのハンドル用として作られていたもの。ただ近年はその需要が減って、不要になった在庫がたくさんありました。いずれはそのまま廃棄されてしまうはずだった素材を、こうやって別の製品づくりに活かせてうれしく思います」
「調理器具や道具をつくるときは、なるべく長く使えるものを、と考えています。ピーラーは使っていくうちに、どうしても刃が傷んでしまいますよね。でも、それで新品に買い替えるのはもったいない。刃だけを交換できれば、ずっと使っていくことができます。ひとつひとつの道具を大切にしていきたいですね」