「SONOBE」の器を作っているのは、神奈川県小田原市にある薗部産業。長年使える品質の良さと料理を引き立てるシンプルなデザインで、多くの人々から支持を集めています。代表の薗部利弘さんに、創業時から変わらないものづくりへの思いを伺いました。
「薗部産業」とは
1949年の創業以来、食器や什器、小物などの木工製品を作り続けている会社です。さくら、カエデ、ケヤキ、ブナといった国産材や世界各地の広葉樹を使用し、原木の仕入れから塗装仕上げまでの全工程を自社で行っています。木が持つあたたかみを多くの方へ届けたいという思いから、看板商品の『銘木椀(めいぼくわん)』をはじめとした器を中心に多彩なラインアップを展開しています。
「祖父の代から製材・木工業を営んでおり、私の父が創業してから70年以上が経ちました。当社の理念は『無理なく、無駄なく、土に還るまで』。小田原の自然をおおいに活かした無理のない製品づくり、間伐材や曲がり材、捨てられてしまうような端材・木クズまで無駄にせずすべて利用し、最後は土に還す、という生産スタイルを続けています。これは、仕入れから完成までのすべての作業を当社で行うという、“一貫生産”だからこそできることだと思っています」
「『SONOBE』の製品は、どれも料理を引き立てるシンプルなデザイン。あくまでも料理が主役で、器は脇役と考えているからです。料理が盛りつけられ、食卓に並べられたところではじめて器が完成します。毎日、そしてできるだけ長く使っていただきたいから、丈夫さ、持ちやすさ、洗いやすさといった使い心地にもこだわっています。製品を見ただけではわからない部分ですが、使っているうちに気づいてもらえるのではないでしょうか」
“料理を引き立てるデザイン”、
“使い心地”に
こだわった薗部産業の器がこちら
木の魅力を存分に楽しめる
「仁取皿(にとりざら)」
小田原の伝統工芸であり、薗部産業でも古くから手がけてきた「仁取盆(にとりぼん)」から着想を得てつくられたお皿です。
「縁は2cmほどの厚みがあり、木の色合いや木目を楽しむことができます。中央に向かってなだらかにくぼんでいるので、ソースがかかった肉・魚料理やドレッシングで和えたサラダなど、少し汁気のある料理も受け止めてくれます」
「『仁取皿』は、丈夫さも魅力。落としてもぶつけても、そう簡単には割れません。理由は乾燥工程にあるのですが、それに大きく関係しているのが、小田原の地域特性。小田原は比較的温暖な気候のため、太陽熱がたっぷりと注がれます。さらに工場の北には金時山、西には箱根山、そして南には相模湾があるため、夏は山からの気持ちのよい風が、冬は海からの温かい風が工場に吹き込みます。太陽熱とちょうど良い湿度を持った風が乾燥工程に大きな役割をし、丈夫な器に仕上がるのです。乾燥工程は3回に渡り、製品が完成するまでは最低でも7か月ほどかかってしまいますが、丈夫な器づくりのためには欠かせない作業です」
くつろぎながらスープを飲んでほしい
「さくらのマグボウル」
銘木椀のデザインを生かしながら、指をかけやすい持ち手部分や手のひらに収まる丸み、すべすべの肌触りが特徴の器。あえて“マグボウル”にしたのは、ソファに座って、のんびりスープを飲んでほしいから。子どもから大人まで長く使えるデザインです。
「私たちの器の絶妙かつ美しい丸みは、熟練の職人たちの手によって作られます。それは「銘木椀」づくりで培われた高度な技術と体で覚えた感覚があるからこそ成しえること。「木地挽き」と呼ばれ、木工製品づくりの中でも特に重要な最終加工の部分です。作業に必要な刃物は10種類ほどありますが、これら道具類もすべて職人自身が作ります。木のものづくりは、使う刃物を仕込むことも仕事のひとつなのです」
木の器は、
異素材の食器やカトラリーと
組み合わせて
自由に愉しんでください。
食事の時間
「木の器を使うときは、陶器のお茶碗や小鉢、金属製のカトラリーなど異素材のものと一緒に並べてほしいと思います。その方が、木の器がよく映えるのですよね。料理がよりおいしそうに見えるように、そして和食にも洋食にも合うように考えた器だから、毎日の食卓で愉しんで使ってください」
職人とともに
「地元の子どもたちに小田原の伝統産業や地域の自然についてもっと知ってほしいという思いがあり、さまざまな取り組みを行っています。子どもたちには、『聞いて知る』ではなく、「使う」という体験を通して地元の伝統産業について知ってもらえれば、と考えています」
「取り組みのひとつが、箸づくり体験。戦後、小田原にたくさん植えられたヒノキの間伐材を使います。子どもたちは、職人と同じように、かんなを使って、箸を削る体験をします。削った箸は、長く使えるように当社で4回塗装を施し、子どもたちにプレゼント。お箸を見て、小田原のヒノキのこと、伝統産業の技術のことを思い出してもらえたらうれしいですね」