エレガントで柔らかな印象を放つ「kasane」。老舗の刃物メーカー・スミカマから生まれたこだわりの包丁です。刃物の町として700余年の歴史を持つ岐阜県関市にあるスミカマを訪ね、「kasane」が誕生した背景やこだわりについて、常務取締役の炭竈太郎さんにお話を伺いました。
「スミカマ」とは
1916年(大正5年)の創業以来、一世紀以上にわたって刃物製造を行っています。代表的商品「KASUMI」シリーズは、世界最大規模で開催されるドイツの国際見本市「アンビエンテ」で「DESIGN PLUS」(※)を2度も受賞。高い技術力と優れたデザイン性は世界的にも認められています。
※最も優れたデザインに贈られる賞
「当社は、私の曾祖父のもう一代上にあたる炭竈丑松が創業しました。関市は昔から刃物産業が盛んで刀鍛冶がたくさんいましたから、起業は自然な流れだったのでしょう。数多くの刃物メーカーがある中で、当社は主に海外への輸出事業で成長してまいりました。平成以降は、輸出事業だけでなく、国内向けの出荷や受託生産も増えて今に至ります。当社は代々炭竈家が受け継いでいますが、実は私が入社したのはつい10数年前。もともと建設業界にいたのですが、現社長・炭竈勝美から誘われ、働くことになりました」
「当社に入って最初に行ったのは包丁づくり。職人たちに技術をイチから教わりました。私はものづくりが好きなので、やりがいもあったし、楽しかったですね。当時よくつくっていたのは、輸出向けの重厚感のある包丁。主にヨーロッパのシェフが使う、プロ用です。そんな中、自分と年齢の近い職人たちとよく話していたのは、『一般家庭で使われるような、もっと気軽な包丁をつくってみたい』ということ。工場で5年くらい働いたのち、私は営業に異動したのですが、その想いはずっと変わらずありました。そして、それがカタチになったのが『kasane』シリーズなんです」
長年温めてきた想いと
こだわりをカタチにした
スミカマの「kasane」がこちら
大切にしてほしい、
さまざまな“重なり”
「kasane」の文化包丁、
ペティナイフ、パン切り包丁
スミカマの高い刃物技術を活かしながら、現代のライフスタイルと女性の視点に合わせた、あたたかみのあるデザインが魅力。持ち手には、希少な岐阜県産の天然木「ヤマザクラ」を使用しています。
「デザインは、岐阜県で活動されているデザイナーの黒元実紗さんに依頼しました。『kasane』のネーミングには、平安時代から続く日本の伝統配色“かさねの色目”、日本の四季の重なり、素材の重なりによる料理のおいしさ、日々の時間の重なり、年齢を重ねた女性の美しさ……、さまざまな“重なり”への想いを込めています」
「包丁の持ち方は、人によってけっこう異なるので、どんな持ち方でも握りやすい形にこだわりました。柄や口金(刃と持ち手のつなぎ目の部分)などがすべて斜めになっているのは、デザイン的には美しいのですが、製造面では苦労したところ。刀身は、高硬度のステンレスと独自の研ぎ工法により、抜群の切れ味に仕上げています。さらに薄刃なので、頻繁に砥げない方でも大丈夫。使っていくうちにどうしても切れ味は落ちるものですが、薄刃だと切りやすさが長持ちします。」
「パン切り包丁の刃先は、ちょっと珍しい波型。固いパンも柔らかいパンも切りやすく、サンドイッチを切るときにも中の具材がズレにくいです。ペティナイフは、食卓のカッティングボードの上で切って、そのまま出しておいてもサマになりますよ」
切れ味の良さは
言わずもがな、
キッチンのインテリアになじむ
デザインも魅力です。
料理の時間
「包丁って、毎日使っているだけに、切れ味が悪くなっても気づきにくいですよね。切れ味の良い包丁は、トマトや刺身のサクなどを崩れずにすっと切ることができますし、素材のおいしさを壊しません。ぜひご自身の手にしっくりと馴染む、切れ味の良い包丁を選んでほしいですね」」
地元への想い
「『kasane』は、黒元さん・林業者・当社の3者で作り上げた商品です。全員、岐阜県で活動している者同士。これまでは、岐阜県を意識しながら製品づくりを行うことはあまりなかったのですが、『kasane』をきっかけに、さらに地元への愛着が湧きました。今後も、岐阜県のものを取り入れた製品づくりを行っていきたいですね」
「最近は、日本の職人の手仕事に注目が集まるようになりました。関市の刃物づくりも見直される機会が増え、当社にも全国から職人を志す若い子たちが集まっています。当社の場合、デジタルに頼る精密な部分もありますが、研磨、研ぎ、しぐみ、刃付けなど大半の作業を職人が手作業で行っています。創業して105年、培ってきた匠の技をこれからも大切に受け継いでいきたいです」