1953年、広島で1つの鍋が誕生しました。その名は「無水鍋」。“無水調理”がここまで世間に浸透したのは、きっとこの鍋の存在があってこそ。半世紀以上にわたって日本中の台所で愛されてきた無水鍋「KING」について、HALムスイの取締役・営業統括部本部長の山元秀樹さんにお話を伺いました。
「HALムスイ」とは
製造元の広島アルミニウム工業株式会社は、1921年に田島倉造商店として創業したのが始まり。1957年からは自動車部品の製造も行っており、その技術は世界有数と評されています。株式会社HALムスイは、その技術の原点ともいうべき無水鍋の販売会社として設立。現在は、無水鍋「KING」・「HAL」シリーズを手掛けています。
「『KING』のルーツは、大正時代に発売したご飯を炊くための羽釜です。当時は鉄製の羽釜が主流でしたが、田島倉造商店がつくったのはアルミニウム製。熱の伝わりが良く、軽いことから人気商品となりました。その後、第二次世界大戦により会社や工場は焼失してしまうのですが、創業者が戦地から復員し、羽釜の生産を再開。そして家庭の台所の熱源がかまどからガスコンロへ移行したことに合わせて、新しい調理器具を開発しました。それが、『キング印 無水栄養ナベ』。名前には、“お鍋の王様でありたい”という想いが込められています。デザインや機能をそのまま受け継ぎ、2018年にリブランディングしたのが現在の『KING』シリーズです」
「無水鍋、無水調理という言葉は、今ではすっかり聞きなれましたよね。ただ、発売当初は誰も知らなかったですし、高価なこともあって販売に苦戦したそうです。それがここまで世間に広まったのは、2つ理由があると思っています。ひとつは、商品の良さ。無水鍋の魅力はたくさんありますが、やはり無水調理が大きなポイント。もともと素材に含まれている水分や油分を生かして旨みを引き出すため、少ない油、調味料でもおいしく仕上がります。ビタミンやミネラルなど栄養分も逃しません。もうひとつは、対面販売を通してお客さまに商品の良さを直接伝えてきたこと。そして、お使い頂いたお客さまが、その良さを友人や知人に伝えて下さりました」
発売してもうすぐ70年。
日本の食を豊かにしてきた
無水鍋「KING」がこちら
炊く、蒸す、煮る、茹でる、
焼く、揚げる、炒める、天火……
1台で8役をこなす、無水鍋「KING」
無水調理はもちろん、ご飯をふっくらと炊いたり、厚みのある魚の切り身や肉を均一にきれいに焼くことができます。揚げ物も、炒め物もお任せあれ!
「アルミニウム素材のため、軽くて丈夫、そして火の通りが早いのが特長です。熱伝導率の高さは、鉄の約3倍、ステンレスの約14倍。ご家庭のガスコンロでも短時間でムラなく素材に火が通ります。温まりやすい分、冷めやすいのでは、とよく聞かれますが、鍋底を6.5ミリと厚めに仕上げてあるため、蓄熱性・保温性も抜群。鍋フタは直接火にかけてフライパンのようにして使うこともできますよ」
「私たちが大切にしているのは、70年近く製造・販売してきたという実績。これまでお客さまからは本当にたくさんのお声をいただきました。『お母さんに焼き芋を作ってもらった』『お嫁に行くときに持たせてくれた』『いつも料理がおいしかった』……そういった“お台所から始まる、幸せの物語”をこれからもご提供していきたいと考えています」
「実は『KING』のデザインは、1953年に発売したものからほとんど変えていません。機能的にとても優れている形のため、改良する必要がなかったのです。持ち手部分には、当時の開発者たちの想いを受け継ぎ、昔から刻まれていたKINGマークを再現しています」
食事の時間
「私は、家での晩酌時に、『KING』を使っています。もやしと白菜を敷き、その上にお肉をのせて蒸すだけの簡単メニューですが、ポン酢で食べるとおいしくて。妻は肉じゃがや煮物などをよく作ってくれます。我が家の日々の調理には欠かせないお鍋ですね」
大切に、長く使ってほしい
「以前、『無水鍋を56年使っている』とおっしゃったお客さまがいました。なぜ明確に年数を言えるのか不思議に思って聞いたら、『当時高価で、経済的に余裕はなかったけど、息子が生まれた年にどうしても欲しくて主人に初めてねだって買ってもらったから』と。長く、大切に使ってくださっていることが伝わってきて、嬉しかったですね。キズがついても目立ちにくいので、きちんとお手入れして頂ければ、50年、60年とお使いいただけると思います」
「無水鍋は、加熱して溶かした金属を型に流し込む鋳造作業から、加工、塗装などほぼすべての作業を自社で行っています。部分的に機械化していますが、熟練職人の感覚や技術に支えられている部分は大きいですね。鋳物は天候や温度に左右される繊細な素材です。ぱっと見ではわからない細部にまでこだわってつくっているので、品質の良さには大きな自信があります」